PRODUCTION NOTES

長年温めてきたテーマと、『最強のふたり』での実体験から生まれた最新作

 エリック・トレダノ&オリヴィエ・ナカシュ監督は、『最強のふたり』を撮る前から、不法移民をテーマにした作品を作ろうと脚本を書き始めていた。時折見かける、レストランの入り口でエプロンをしたままタバコを吸って休憩している、アフリカ人やスリランカ人の従業員たちの姿に着想を得、彼らの人生や運命についての物語を撮りたいと模索していた。そんな中、『最強のふたり』を撮影することによって、燃え尽き症候群がどんなものかを、自分たちで「経験してしまった」と笑う二人は、それを新作のもう一つのテーマとして組み込もうと決める。"移民問題"と"燃え尽き症候群"、この2つは、実は根っこを同じとした一つのテーマだ。日々に忙殺され、“人生のための仕事”のはずが、“仕事のための人生”にいつしかすり替わってしまっていることに気付いた二人は、「仕事だけが人間の存在意義なのか? 僕たちは、この疑問を世間にぶつけたいという想いでいっぱいだった」と語る。こうして、移民と大手企業の管理職と、立場は全く違うけれど仕事こそが最も大事だと考えていた二人が出会い、社会的な成功に左右されない、新たな幸せを見つけようとするというプロットが出来上がる。
 前作と同じく真逆な二人を描いたのは、「大勢の人がこういう映画を必要としていると感じた」からだとトレダノ監督は説明する。

運命共同体として、最初から参加したオマール・シー


 オマール・シーが、『最強のふたり』でセザール賞に輝いた数日後、トレダノ&ナカシュ監督は彼と会い、「もし君が次回作に乗り気なら、僕たちもそのつもりだよ」と持ち掛けた。シーはその場でプロジェクトのごく最初から関わることを快諾する。シーはその時のことを、「同じリスクを背負いたかったんだ。もし彼らと出会っていなかったら、僕は違う人生を送っていたからね。彼らには尊敬と親愛の情しかない」と語る。
 最初に脚本を読んだ時の印象をシーはこう語る。「『サンバ』では、悲劇的な瞬間とコミカルな瞬間を丁寧につなぎ、深刻なことを軽妙に描写するという彼らの手法に、さらに磨きがかかっていたんだ。」
 今回、シーが最も苦労したのは、アフリカ訛りだ。アクセントを正確に話すことが、物語に信憑性を与えると考えたシーは、何度も親戚に助けを求めて練習した。その甲斐あって、完璧に役になりきって撮影初日を迎えたシーは、「現場は前作と同じように幸福感に満ちていた」と振り返る。

コメディが怖かった、フランスのトップ女優

 知性と繊細さを持ち合わせたアリス役には、「シャルロット・ゲンズブールしか考えられなかった」とトレダノ&ナカシュ監督は語る。そのため、脚本が完成するずっと前にゲンズブールにオファーし、自分たちのアイデアを一から丁寧に説明した。「彼らの作品に最初から関われるなんて、とてもラッキーだと思ったわ」とゲンズブールは振り返る。彼女は役作りのために、燃え尽き症候群に関する本を読み、医者の話を聞き、病院を視察した。
 何と言っても印象的なのは、アリスが突然キレるシーンだ。ゲンズブールは、その時のことをこう語る。「か細い声で話すことが多い私みたいな女優にとっては、すごく刺激的だったわ。自分をさらけ出さなくてはいけなかったから、不安でいっぱいだった。性格を変えなくちゃいけなかったくらいよ。でも、こういうシーンこそ、演技の醍醐味だと思うわ。」
 フランスで最高のキャリアを誇るゲンズブールだが、意外にもコメディは「怖かった」と言う。特にアドリブでは、観客を笑わせる自信がないと言うのだ。「オマールに私の不安な気持ちを伝えたら、私にアドリブは禁物って気付いてくれて、そのおかげで本当に助かったわ。」 一方、ゲンズブールの大ファンだというシーは、「『最強のふたり』のフランソワ・クリュゼ同様、“本物の映画人”と尊敬している俳優なので本当に緊張した」と振り返る。「シャルロットに、僕の不安が伝わってしまうんじゃないかと申し訳ない気持ちでいっぱいだった。でも、僕の不安げな感じが、逆にリアルで良かったのかもしれない。」
 ゲンズブールは、衣装にもアイデアを提供した。「いつも同じ靴とコートを着ることにしたの。彼女にとってそのスタイルは、ボランティア団体にいる時の防護服なの。 」